中国におけるVPNの違法性
- 個人のVPN利用を禁止しているわけではない。
- VPNで金盾を突破して国外のインターネットにアクセスすることは違法行為になる。
- VPNは、中国の『インターネット国際接続管理暫定規則(第六条)』で禁じられている「国際接続用の他のチャネル」にあたる。
※金盾(Jīndùn):中国のインターネット検閲システム。英語圏ではGFW(グレートファイアウォール)と呼ばれる。
VPN利用に対する中国政府の対応は、今のところ次のようになっています。
- 中国人がVPNで国外のインターネットにアクセスする行為は違法行為(翻墙罪)
- 在中外国人のVPN使用については黙認
中国の法律・規則、処罰の報道をもとに、中国でのVPNの違法性について解説します。
目次
中国でVPNは違法なのか
- VPN自体に違法性はない。
- 中国では、VPNで金盾を乗り越えて国外のインターネットにアクセスすることは違法行為にあたる。
- 2019年ごろからVPNを使用した中国人の処罰が度々報じられる。外国人が処罰された前例はない。
まず、VPNが違法な接続方法であるという誤解をしているなら、認識を正しておかなければなりません。
VPNは、インターネットのプライバシー保護の技術です。VPNでインターネット接続すると、その通信はトンネル化されて外部から見えなくなるため、情報漏えいを防ぐうえでも有効です。
そのため、企業間で機密情報をやり取りする場合や、リモートワークの社員が社内イントラにアクセスする場合など、日本では日常的に使われている技術です。
通信をトンネル化できるVPNは、中国で金盾(インターネット検閲システムの壁)を突破する手段としても利用されるようになりました。
ただし、中国国内からVPNで金盾を突破して国外のインターネットにアクセスすることは違法行為にあたります。
違法行為の根拠とされる規定
国際ネットワーク通信には、中国郵政省が提供する公共ネットワークを使用しなければならない。団体や個人は、独自に国際接続用の他のチャネルを設置したり使用してはならない。
1996年、まだVPNが一般的ではない時代に公布された規則です。
2019年以降、翻墙罪で処罰される中国人が度々報じられるようになりましたが、その処罰の根拠とされているのがこの規則です。
翻墙罪とは
金盾を突破して国外のインターネットにアクセスすることは違法行為であり、「翻墙(壁を乗り越える)」という罪になる。
VPN接続で処罰された実例
- 2018年12月:広東省でGFWを破ったネットユーザーに罰金1,000元。
- 2019年01月:陝西省でVPNを使って海外ネットワークにアクセスしたネットユーザーに罰金500元。
- 2019年03月:四川省で仕事用の携帯電話にVPNアプリが入っていたことが発覚したユーザーが行政処分。
- 2019年07月:四川省で携帯電話からVPNを使用して海外の動画を視聴したネットユーザーに警察が警告。
- 2020年05月:陝西省でVPNアプリを携帯電話に入れて海外ネットワークにアクセスしたユーザーに罰金500元。
出典:CHINA DIGITAL SPACE『翻墙罪』※1元は日本円で約20円。
VPNによる通信チャネルが、『インターネット国際接続管理暫定規則(第六条)』で禁じている「国際接続用の他のチャネル」にあたるというわけです。
処罰は中国人に対しておこなわれており、いままで外国人が処罰された前例はありません。
中国はVPNを禁止したのか
- 中国は、個人のVPN利用を禁止したことはない。
- 中国が取り締まりたいのは、中国国内で許可なくVPNサービスを提供した事業者。
- 海外のVPN事業者を取り締まることはできない。
ネット上には「中国がVPNを全面的に禁止した」「個人のVPN利用も禁止した」とも受け取れる過去の記事やニュースが残り続けています。
この誤報の原因は、2017年1月に中国工業情報化省が行った通知を正しく理解できていないことにあります。
VPN全面禁止と曲解された通知
規則に違反して中国国境を跨ぐ事業について。
電気通信当局の承認なく、中国国境を跨ぐ事業用の専用線(VPN含む)を独自に設置またはリースしないこと。基の通信会社が利用者にリースする国際専用線については、ユーザー情報を取りまとめる必要がある、使用用途を社内業務に限る旨をユーザーに説明する、国内外データセンターへの接続或いは通信事業用のプラットフォームに使ってはならない。
2017年1月に工業情報化部(省)が出した「インターネット接続サービス市場の整理と規則に関する通知」です。
この通知は、無許可の通信サービス事業者を一掃して市場を整理することが狙いです。
この中でVPNについても言及されており、「中国国内で政府の許可なく独自のVPNサービス事業をしないように。」との記述があります。
ただし個人のVPN利用について言及した箇所はなく、個人のVPN利用を含めて全面的に禁止する意図は無いことがわかります。
Bloombergの報道により反発が高まる
2017年7月、米国の情報通信会社Bloombergが、「中国政府が通信事業者に対し2018年2月までに個人のVPN接続を遮断するよう命令していた」と報道する。
Bloomberg『中国:個人のVPN遮断を通信各社に命令』
この報道を受けて中国工業情報化省は「そのような通達は行っておらず報道は事実に反する。1月の通達は無許可の事業者を対象にしている。」と説明。
Bloombergの報道は「中国政府はグレートファイアウォールの抜穴を完全に塞いで、情報を閉ざそうとしている。」という内容だったため、世界各国で強い反発の声が上がりました。
しかし、中国がVPNを完全に禁止する可能性は低いと見て良いでしょう。ただし、VPNによる金盾破りが規則違反であることには変わりません。
また他国(日本含め)のVPN事業者は、取り締まりの対象になりません。中国に利用者が居るからといって、中国政府のVPN事業許可を取る必要があるわけでもありません。
中国政府がVPN事業者に対してできる「処罰」は、VPN接続の遮断やVPNサーバーに対する通信妨害が限度となるでしょう。
日本人は日本のVPN事業者を使うべき理由
- 日本のVPN事業者は、当然日本で事業許可を得ている合法な事業者である。
- 万が一のときに日本語で対応してもらえる。こちらの話も正しく伝わりやすい。
- もし中国で逮捕されることがあっても、日本人が日本のVPN事業者を使っていることに不自然な点は無い。
- 日本大使館に対処してもらうような事態になった場合にも、日本のVPN事業者であれば説明が付く。
外国人が処罰された前例はないとはいえ、中国ではVPNで国外のインターネットにアクセスすることは違法行為です。
日本人が中国でVPN接続するときは、中国当局(公安や警察)に説明が付くように日本のVPN事業者を利用することが望ましいと個人的には感じています。
もし逮捕されたときに、利用していたVPNが海外VPN事業者なら、スパイ活動を疑われても弁解するのが大変になりそうです。
「日本人なのに、なぜ香港のVPNを使っているのか?民主化運動に関わっているんじゃないのか?」
と疑われないように、できれば日本のVPN事業者を利用しておくのが無難でしょう。
まとめ
- 中国では、VPN接続で金盾を乗り越えて海外ネットワークにアクセスすることは違法行為にあたる。
- VPNは中国の『インターネット国際接続管理暫定規則(第六条)』が禁じている「国際接続用の他のチャネル」にあたるとして中国人に対する処罰が度々報じられている。外国人が処罰された前例はない。
- 中国は、個人のVPN利用を禁止したことはない。政府の許可なくVPNサービス事業を行うことは禁止している。
- 日本人が中国でVPN接続するときは、日本のVPN事業者を利用することが望ましい。